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チェンマイの休日

古都チェンマイは、自転車がよく似合う街だったが、何時の頃からか、ワラワラと湧き出るように走り回るモータサイ(バイク)の街へと変わった。
その中に混じってスクーターのベスパを近頃よく見かける。
ラテン語でスズメバチを意味し、映画「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックが颯爽と二人乗りしていたアレである。

そう気付いてから注意して見ると、街の中には専門ショップが結構多い。
このベスパ、もともとはバンコクの中華街やインド人街で配達用の荷車として重宝がられていたそうで、今でもバンコク市内では氷屋や洋服の生地屋が荷物を山積みしてテケテケと走っている。

チェンマイ市内の店頭に並ぶ大半のベスパは修理前でボロボロだが、主人やスタッフのモノと思しき数台はキレイに塗られ磨かれてお洒落な姿になり、
誇らしげに置かれている。
訊いてみると「好きな形・色を選んで、どんな風にして欲しいか言ってくれれば完璧に仕上げるよ!」などと、まるで屋台のシーフード料理店での注文のようである。

肝心なお値段は・・・何と平均すると6万〜8万バーツ(18万円〜24万円以上)!!!
日本の専門ショップと大差無いのではないか。大卒サラリーマンの平均収入を2万バーツとすると約4か月分に相当し、日本の感覚で言うならば100万円くらいか。
そんな値段で、しかも混合給油(ガソリンを入れた後にエンジンオイルを適量入れる)や独特なミッションが面倒だの故障が多いなどと言われるシロモノに乗ろうなどとは何と酔狂なことかと思っていた。
しかし、街で見かけるベスパ乗り達も専門ショップの主人やメカニック達も実に穏やかな幸せそうな表情なのである。
「どうだ、いいだろう!?」とでも言いたげな空気をプンプンと周囲に振り撒いているのだ。
決して大都会とは言えないチェンマイにも「おたく(エンスー)」は存在するのだ。

洗練されたローマの街並みほどではないが、チェンマイのお堀とターペー門をバックに、美しい黒髪を風になびかせて颯爽と走る「東洋のヘップバーン」。
そのうしろ姿はかなりカッコイイのである。

写真・文: 城戸可路