駆け込み寺
寺に駆け込むのは女性、と相場がきまっていると思うのだが、タイでは男も駆け込む。女房に浮気がばれた。親不孝がたたり勘当されそうだ。他人にとんでもない迷惑をかけてしまった等など、せっぱつまりどうにもならなくなったときタイの男は、出家し僧になる者が居る。体のよい一時の逃げ場なのである。
タイは、ご承知の通り仏教国であり、国民の大半が仏教徒である。
男は生涯のうち一度は仏門に入り修行を積むという習慣がある。が、不肖の息子や夫は後を絶たない。
どんなに憎たらしく、ろくでもない夫に、殺したいほど不肖の息子に、昨日まで罵声をあびせ追い掛け回していたとしても、その本人が出家し僧になってしまえば「仏に仕える僧」として敬わなければならない。
特に上座部仏教では不肖がゆえ自身で成仏できないといわれている女は、僧に対し一指たりとも触れることができない。
よって、女房も親も僧となった憎き夫や息子にうやうやしく合掌し、本人の都合のよいもっともらしい説教を、うらめしいながらも神妙に聞かなければならない。
その姿は実に滑稽であるが、何か微笑ましく人間らしさを感じさせる。
写真・文: Mac