路上の荒治療
喧噪のバザールを歩いていたらうず高く積まれた素焼きの壺や器の間から一瞬奇声のようなものが聞こえたので覗いてみた。雑然と置かれた様々な物と物の間の僅かな空間に若い男が首を突き出し口を大きく開けた姿で色浅黒く怖そうな顔をしたおっちゃんの前に座っていた。
何をしているのだろうと思い近づいてみたら地面に広げられ薄汚い布の上に錆ついたヤットコ(ペンチのような物)、何種類かのヤスリなど得体の知れない小道具が並べられているその脇に血の付いた歯が一つころがっていいた。この若者は今、目の前のおっちゃんにヤットコで歯を抜かれた瞬間だったのだ。
おっちゃんは、どこからか氷のかけらを取り出し若者の頬にしばらくあてがっていたが、やがて若者の頭に右の手の平をあてがい何やら呪文のようなものを10秒ほど唱えて「はい終わり」という素振りに若者は立ち上がり、ぽかんと見ている私を横目に人混みの中に消えていった。
2011年2月 ネパール カトマンドゥにて 写真・文 面高昌男
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