ウルワトゥ寺院のケチャ
インドネシアのバリ島は美しいビーチで知られる観光地ですが、絶景だけでなく様々な文化芸能を持つ島でもあります。バリ島の文化芸能といえば「バリ舞踊」「ガムラン音楽」「バリ絵画」が主なものですが、ちょっと異質なれど上記のどれよりも観光客に人気があり、独特な世界に観客を引きずり込むのが『ケチャ(ケチャック)』です。
バリ島には「サンヒャン・ドゥダリ」と呼ばれる土着の憑依舞踊がありました。これは悪いことを追い払うためのバリ・ヒンドゥーの儀式で踊られたもので、混声合唱に合わせて初潮を迎える前の少女が踊り子になりました。
1920年代後半から島に住み着いて芸術活動を行い、またバリの芸術育成に力を発揮したドイツ人画家ヴァルター・シュピースは、バリ人舞踊家が発表した「サンヒャン・ドゥダリ」の混声合唱にバリ舞踊を組み合わせた創作を観て、“男声合唱にラーマヤナ劇を組み合わせたショー”を思いつきました。
そして彼の提案を元に地元の人々が1933年に始めたのがケチャの原型だそうです。彼は「バリ芸術の父」と呼ばれています。
そしてバリ島のケチャダンスで一番有名な場所が、絶景でも知られるウルワトゥ寺院です。
正式な名前は、ルフール・ウルワトゥ寺院。バリの最南端、バドゥン半島の最も西側の高さ70メートルの断崖絶壁の上にそびえるバリの六大寺院(サド・カヤンガン)のひとつです。
このウルワトゥ寺院で行われるケチャのショーを観るために多くの観光客がやってきます。開演時刻は夕方でオープンの舞台のむこうがわに美しい夕日が沈んでいきます。
※3枚目の火が燃える写真の右上の断崖絶壁の上のシルエットがウルワトゥ寺院。
ケチャは簡単に説明すると数十人〜百人近い男たちによる合唱と踊りで、リズムを刻む「タンブール」、メロディーを歌う「プポ」、そしてその他の男たちが以下の4つのパートに分かれて「チャッチャッチャッ」と叫びます。解説書によれば、「プニャチャ」は四拍子の間に「チャ」という叫び声を7回入れる。「チャク・リマ」は四拍子の中に「チャ」を5回入れる。「チャク・ナム」は四拍子の中に「チャ」を6回入れる。「プニャンロット」はチャク・ナムを16分の1後ろにずらして刻む・・・思いのほか複雑です。
この複雑さが特徴的で不思議なトランス状態を呼ぶケチャになるんですね。
(2011年3月 インドネシア・バリ島)
写真・文:城戸可路