プノンペンの台所、オールドマーケットを歩く
東南アジアのどの国、どの町へ行っても庶民の生活は朝早い時間に始まる。そして早朝、日中、夜と全く違う顔を持つというのも共通している。早朝は活気があって爽やかで明るく、日中は暑さの中で気だるく、(一部の大都市や歓楽街を除いて)夜は何もない。だからどの国へ行ってもおのずと早起きして地元の市場を見に行くようにしている(そうでない宵っ張り快楽人間も多いが)。市場ヘ行くとその喧騒の中にその土地ならではの品物があったり、周辺国からの輸入品を見ればどこの国の経済的影響が強いかが一目瞭然で興味深い。
今回やってきたのはカンボジアの首都・プノンペンにあるオールドマーケット。この市場はクメール語で「プサー・チャー(古い市場)」と呼ばれている。カンボジア内戦のもっと前のシアヌーク政権時代(1954〜1970年)にセントラル・マーケット(プサー・トゥメイ、新しい市場)が出来るまでは中央市場だった。
朝7時。ぶらりと訪れると市場はすでに忙しさのピークで、地元の人々でごったがえしていた。「やっぱ、これだよなぁ」と独り言ちながら歩いて行くと、目の前には今まさに処理されたばかりの肉の壁が現れた。冷蔵庫もない場所なので台に載せられたりぶら下げられたりして、生々しい肉の匂い(臭い?)が周囲に立ち込めている。その先はトンレサップ川やメコン河からの海の幸ならぬ川の幸。肉も魚も新鮮なまま、その日のうちに人々の胃袋に入るだろう。
狭い通路脇をふと見ると小学生くらいの少年が何かやっているのが見えた。近づいてみると並べた七輪で鶏肉や豚肉を焼いている。横の店の子供ではなさそうだし、近くを見回しても家族らしき姿は無く、どうやら小さな屋台店主のようだ。肉をひっくり返す手つきも手馴れたもので自信ありげだ。東南アジアの市場では親の仕事を手伝う子供たちが多いが、この子も早朝の一仕事を済ませてから学校へ行くのだろう。
さらに進むとその先には朝食屋台が並び、狭い座席に地元の人たちがぎゅっと座って美味しそうに麺類を食べていた。また隣には豆や米を使ったデザートなどが並べられていて結構人気のようだった。
このオールドマーケットで売られているのは生鮮食料品が大半だが、肉や野菜に並んでアクセサリー店が固まっている一角がある。これはタイの金行と同じか日本でいう質屋のようなシステムらしい。客の姿はほとんど見かけないが、日中はそれなりに人が集まるとのこと。
市場の周囲にも食べ物屋台が多いので朝の散歩がてら出かけてみてはいかがだろうか。たとえ言葉は通じなくても地元の人たちの笑顔と市場の活気から元気をもらえるはずだ。
(写真1)肉は新鮮なのが色つやでわかる
(写真2)売れている魚屋さんはお兄さんも元気
(写真3)小さくても一人前
(文・写真: 城戸可路)