バーシーの儀式
ラオスはタイやミャンマーと同じく上座部仏教が信仰されているが、元からあった精霊信仰も残っていて日常生活の中に儀式として定着している。ラオス人にとって最も重要な儀式に「バーシー」がある。正確には「バーシー・スー・クワン」という。
人間の身体には32個の魂(精霊=クワン)が宿っていて、これが体内にあるときは幸せに過ごすことができるが体外に出てしまうと不幸なことが起こる。クワンが体外に出るのは誕生、結婚、旅立ちといった節目節目の時であり、このクワンが身体の外に出ないように、そして出てしまったクワンを呼び戻すために行われるのがバーシー・スー・クワンの儀式である。
この日、村を訪ねた我々と久しぶりに町から戻った家の娘たちのためにバーシーの儀式が執り行われた。儀式ではバナナの葉を使った「パー・クワン」という花飾りと供え物である鶏、餅米などが乗せられたお盆を前に村の長老が厳かに何事かを唱え始めた。今日の儀式を受ける我々について神様に説明でもしているのだろうか。パー・クワンの前に並ばされた我々は手首に糸を巻かれ、その糸の一方を長老の手元でまとめてさらに祈りを捧げられた。その後はその場に集まった家の者、親戚、村人ら数十人が来訪を喜び健康を祈る言葉を呟きながら次々に手首に糸を巻いてくれた。
手首に糸を巻かれている最中、その手首はほんのりと温かくなり、一人一人の祈りを聞きながら心が喜びに潤うのを感じた。
(2010年7月 ラオス・サイニャブリー県ホンサー)
写真・文: 城戸可路